バフェットとソロス 勝利の投資学

マーク・ティアー (著)
望月 衛 (翻訳)

投資マニアにはおなじみの、バフェットとソロスの類似点・相違点を網羅した書です。彼らの生い立ちからキャリアなど、 人格形成の奥深い部分にまで踏み込んで両者を比較しています。ただしそれはあくまでも話のネタとして、 彼らを観察することによって投資家として成功するための考え方が23か条としてまとめられています。

筆者自身もそこそこ成功した投資家であるためか、「そうなのではないかな?」と私も思っていたことが簡潔にまとめられていて興味深いです。

たとえば第5条

「分散投資なんて小鳥さんのやることだと信じている」

これは「達人は自信がある投資機会にしか行動を起こさないし、いざ動くとなればポジションに大きなインパクトを与えるぐらい腹いっぱい仕込む。分散投資するのが最良という考え方はしない」ということです。投資理論の常識では「できるだけ分散することによって超過リターン/リスク比が最大になる」ということになっているのですが、それとは正反対の考え方ですね。

私は両方の考え方があると思います。たとえばどの銘柄が良いのかわからない人であれば、無理をせずインデックスに連動するETFでも買っておけばいいでしょう(尤もそのまえに、そもそも株を買うべきかという重要な判断が必要ですが)。しかし経験を積むにつれて、数多ある会社の中でも安全かつ収益率の高そうな銘柄は、何百もあるわけではないことがわかってきます。

公募投信などを運用しているファンドマネージャーはそのことがわかっていても、大きくインデックスに負けるとマズイことになるので集中投資はしません。一方で、あまりインデックスを気にしなくても許される投資家は、良い銘柄だけを選んで(あるいは逆にとびきり悪い銘柄をショートして)投資することができるのです。まあ資金の出し手のインテリジェンスによって運用手法は制約されるので、そういった差が出てしまうのはしょうがないと思います。

第16条

「経験を積めば積むほどリターンも高くなる。
今では金儲けのために過ごす時間は減ったように見える。
『修行は積んだ』」

この気持ちはわかります。市場を長いこと見ていると、「ああ、今は94-95年にそっくりだなあ」などと考えて、「じゃあもしアレがこうなればナニはソレするよなあ」とわかってしまうんです。まあ100%自信があるわけではないんですけどね。

第22条

「金を払ってでもこの仕事がしたい」

投資は刺激と自己充足のためにやる。金のためではない。

これも深いですね。人間のモチベーションには「逃れるため」と「近づくため」の2種類のドライバーがあり、たとえば貧乏から逃れるモチベーションで動いている投資家はある程度の資産を築くと投資をやめてしまうと。ソロスやバフェットは刺激と自己充足のために投資をしているので、とっくに一生遊んで暮らせるカネを手に入れているのにそれでも続けることができるのだと言っています。

投資の達人になるための考え方や態度はこの23か条だけではないと思いますけど、かなりイイ線を押さえていると感じます。少なくとも投資の基本をひととおりマスターし、自分なりの体系を作り出すぐらいのレベルにある人には面白いのではないでしょうか。

しかしこの筆者、「税金を支払うのは自分の宗教に反するという理由で」香港に在住とか。オーストラリア人だからPT(永遠の旅行者)にもなれるわけね。だけどPTって、淋しくなったりしないのかなあ。俺はサラリーマン辞めてあちこちフラフラしているだけで、地に足が着いていないような気がしてけっこう淋しかったぞ(笑)。だからこそ逆に、日本という国が大好きであることも再認識したんだけどね。

ま、そのへんは人それぞれかな。